草思社はこんなにいい本を出してきた

草思社のように漫画、新書、文庫を持たない出版社に、出版不況は重くのしかかる
出版社の草思社が1月、東京地裁に民事再生法の適用を申請した。『声に出して読みたい日本語』(齋藤孝著)や『大国の興亡』(ポール・ケネディ著)など、日本出版史に残る書物を送り出してきた同社の仕事を振り返ると、あらためてその価値に驚かされる。オンラインショップ「セブンアンドワイ」は単独の出版社を応援する異例の取り組み「草思社応援フェア」を始めた。
「セブンアンドワイ」が同フェアに踏み切ったのは、民事再生法の適用申請から間もなく。「草思社は、優れたノンフィクションの書籍を多数出版しており、永きにわたり出版界の繁栄に貢献し、また多くの根強いファンを有した出版社です」とした上で、継続的なフェアとして展開する考えを示した。
同フェアでは自動車評論家・徳大寺有恒氏の『間違いだらけのクルマ選び』や、川島令三氏の『全国鉄道事情大研究』、日本語ブームの火付け役となった『声に出して読みたい日本語』などのシリーズをそろえた。草思社が強みを持つ「注目の中国関連本」「心に響く文芸書」のコーナーも設けている。
出版社の生命線は企画力。草思社は時代の空気をつかむ着想に定評があった。例えば、『他人をほめる人、けなす人』(1997年、F・アルベローニ著)。『Aする人、Bする人』式の対句型タイトルの書籍が相次ぐ先駆けとなった。
イタリア人コラムニストが書いた原書の題名は直訳すれば「楽天主義」。このままでは読み手にメッセージが届きにくいと判断して、同社が大胆にタイトルを変更。その甲斐あって100万部を超えるベストセラーに育った。
タイトル付けのうまさが光る。『ツルはなぜ一本足で眠るのか』(小原秀雄、渡辺富士雄、ぐるーぷ・ぱあめ著)はハッとさせる率直な疑問形の題名が引き付ける。『平気でうそをつく人たち』(M・スコット・ペック著)は最後に加えた「平気で」が利いた。
2001年に出版した『声に出して読みたい日本語』シリーズは160万部以上を売り上げ、日本語ブームを先導したのも記憶に新しい。出版社が文化創造の一翼を担うのは無論だが、このような形で広範な文化ムーブメントを呼び込んだ功績は忘れ去られてはなるまい。
人文書のカバージャンルは幅広い。自伝・評伝物では『ひばり自伝』(美空ひばり著)、『左腕の誇り 江夏豊自伝』(江夏豊著)、『気がつけば騎手の女房』(吉永みち子著)などが異色の自伝として評価が高い。『女盗賊プーラン』は映画にもなった。
覇権国家の興隆と衰退の軌跡をたどった『大国の興亡』をはじめ、国際社会の底流を見通すようなアプローチも得意としてきた。『太平洋戦争とは何だったのか』(クリストファー・ソーン著)はあらためて太平洋戦争の意味を問い直す論議を呼んだ。『告白』(ボリス・エリツィン著)は旧ソ連からロシアへの体制変革をリードした主人公の内面を伝えた。中国経済の暗部をえぐった『蛇頭』(莫邦富著)のようなノンフィクションにも厚みを持つ。
経済・ビジネス書では『日はまた沈む』(ビル・エモット著)、『YEN!』(ダニエル・バースタイン著)などが話題をまいた。経済書ではないが、92年に出た『清貧の思想』(中野孝次著)は、バブル期の終焉を迎えた時期に、日本人の心性を見つめ直す機会を与えた。
長く続く出版不況のあおりを受けた格好だ。雑誌や文庫本を持たないことが、草思社の弱みだったと指摘する声がある。経営の面から見れば、確かにそうなのかも知れないが、単行本主体で「いい本」を作ろうと頑張ってきた出版社だけに、すみやかな再建を期待したい。68年創業の草思社は今年で不惑。40歳と言えば、人間なら働き盛り。壮年でのリスタートを応援したい。
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